ジェミニの恋

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「これ、あなたの結婚資金に貯めていたものよ」 「好きなように使いなさい」とテーブルに母が置いた。 「え?で、でも……」 親が貯めてくれていた事実に驚くと同時に、それを私が自分勝手に決めた道で使うのは躊躇われて押し返そうとした。 でも、母が私の手を掴んで制止させた。 「これからはお金が必要でしょう?ここで変な意地張らずにもらっときなさい。いざという時のためにあなたの助けになれば、このお金の意味が生きるんだから」 「お、お母さん……」 「あ、だからって結婚しなくていいわけじゃないから。ちゃんといい人がいたらすぐ結婚なさい」 焦った様子で付け足す姿がいつもの母で、私は肩に力が入っていたのがようやくここで解けた。 「うん、ありがとう」 私は泣きながら両親に頭を下げた。 もう大人なんだから一人で生きていけるなんて考えは勘違いでしかなかった。 私はお兄ちゃん、お姉ちゃん、夏月、両親の支えで立っているのだ。 それを自分の力で何とかできると息巻いていたことが恥ずかしい。 みんなの支えに応えることができるように、これからちゃんと自分の意志で歩いていく。 それが『期待に応える』ということなんだと今更気づいた。
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