卒業

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夕方の校舎。 卒業式だった今日は授業もないから閑散としている。 いつにも増して静かな夕暮れで赤く染まる廊下で私は目的の人物に後ろから近づいた。 「ヒナ先生」 私が呼ぶとスーツをピシッと着たヒナ先生こと、朝比奈夏月先生がこちらに振り返った。 廊下に一人で立っている私を見て、ヒナ先生の猫目がちな双眸が開かれる。 「まだ残ってたのか、月島」 「だって、先生いつまで経っても一人にならないんだもん」 卒業生たちに囲まれて、ずっと写真とか寄せ書きだとかを書いていた先生。 その他にも卒業式の片付けとかをしていて、なかなか捕まえられなかった。 「先生の独占権を行使します」 「そんなもの与えた覚えはありません」 腕を広げて抱きつこうとしたら先に先生の長い腕が伸びて私の頭を押さえる。 片腕なのにビクともしなくて、近づこうにも近づけず私は諦めて再び先生の前に直立した。 「本当に『先生』をやめるの?」 「ああ」 「私より先に卒業するなんてひどい」 「悪い」 高二の私が卒業するのは来年。 その時にはもう。 いや、新学期にはもうヒナ先生はこの学校にはいない。 それが寂しくて、悲しくて。 先生が辞めるって聞いて二カ月以上は経つけど、まだ受け入れられない。
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