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きっと、ヒナ先生じゃなかったら、みんな練習もサボっていただろうし、あれだけ部活に熱い時間を費やせなかったと思う。
そういう、生徒思いのところや義理堅いところを傍で見ていて惚れないほうがおかしい。
「それは、まぁ……ありがとう」
私のストレートな言葉にちょっと照れたのか言葉が詰まる先生。
普段、余裕な態度が多い先生だけにその姿は貴重だ。
しっかり目に焼き付けようと力一杯刮目したら、「怖いからやめなさい」と先生に引かれた。
「先生辞めるなんてもったいない」
先生が職員室に戻る中、私は隣を歩いてついていく。
人気者のヒナ先生を独占できるのはなかなかない。
だから、少しでも、残された時間が許す限り近くにいたいのだ。
「そうか?俺よりいい先生はいっぱいいるぞ」
「ううん、ヒナ先生が断トツだよ。だってヒナ先生はみんなに平等だもん」
「平等?」
「そう。頭が良くても、素行が悪くても。絶対人を見て態度を変えたりしない。いいことをしたら褒めてくれるし、悪いことは悪いってちゃんと叱ってくれる。いつだって話を真剣に聞いてくれる。子供なんだからこうしろって頭ごなしに押し付けずに、一人の人間として対応してくれた。そういう先生はヒナ先生だけだったよ。みんなそう言ってる」
それこそ一年くらい前。
私と同じクラスの森くんが騒いで授業にならなかったことがあった。
彼はPTA会長の息子で、父親が私立であるこの学校に多額の寄付をしている。
だから、先生たちもなかなかきつくは叱りつけられなかったのが、やんわりと宥めては機嫌を取るような感じ。
でも、うちの学校は進学校だから塾に行っている子はある程度そこで学べるからいいけど、行っていない子は授業に遅れると後々大変になってくる。
そして、私もその一人だった。
この学校にギリギリ合格して、まったく天才でも秀才でもないから少しでも乗り遅れると完璧落第生だ。
ちんぷんかんぷんながら、必死でうるさい教室で先生の言葉に耳を傾けて、復習して、何とかついていっていた。
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