卒業

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「先生の心の中にはあの写真の女の人がいるの?」 私の問いに先生は瞠目した。 この前の文化祭中、写真を取って回る先生のデジカメを友達とこっそり見たことがある。 その時、メモリーに残っていた、女の人とのツーショット。 浅草の雷門の前で二人並んで笑っている写真。 その後、友達が「彼女だ!」と騒いだからすぐに先生にデジカメを取り上げられてしまった。 「彼女じゃない」と言う先生は少し切ない顔をしていて。 私は写真を見た瞬間、先生の好きな人なんだと思った。 それくらい、写真の先生は優しい笑顔だった。 ヒナ先生の好きな人は黒髪のとても美しい女性だった。 この前、顔に傷を作ってきたのも多分、その人絡みだったんだろう。 あの時のヒナ先生の言い訳が「自転車で坂道を猛スピードで下ってたら誤って顔面から転んだ」だった。 でも、明らかケンカの痕だっただけにみんないろいろ突っ込んだ。 女と揉めたとか三角関係の修羅場になったとかくだらない噂が再燃したけど、ヒナ先生は何を言われても言い訳を突きとおした。 結局真相はわからないけど、あの女の人が絡んでいると私の直感はそう言っている。 「そうだな」 先生は思案の後、誤魔化さずに頷いた。 「忘れられない?」 「当分は。俺に自由をくれた人だから」 窓の外を見つめる先生。 夕日を浴びた横顔はとても優美で、男前で、慈愛に満ちていた。 その表情は恋をしていて、いつもの先生とはまた違う。 やっぱり先生は大人の男だ。 まだ私には手が届かない。
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