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「んじゃあそろそろ行くわ」
飛行機の搭乗時間が迫ってきた俺はリュックを背負ってイスから立ち上がる。
「ちゃんと忘れ物ない?酔い止めは飲んだ?」
「いや、大丈夫だから」
見送りにきたおふくろがまるで幼稚園児が遠足に行く前の確認みたいなことをするから思わず苦笑が漏れる。
親にとっては子供は何歳になっても子供だというが、本当にそうらしい。
そわそわするおふくろの隣で姉貴がにっこりと俺に笑いかけてくる。
「身体に気をつけるのよ。新婚旅行そっちに行くから案内してね」
「それまでにはちゃんと案内できるようにしとくよ」
姉貴に頷く。
五月に結婚する姉貴は旦那さんと新婚旅行に俺がいるニューヨークを選んだ。
本当なら海が綺麗な南の島とか中世の雰囲気が残る城とか見たいんじゃないのかって言うと、前の結婚相手と行ったことがあると旦那さんに言うとすごく不機嫌になってアメリカ本土になったらしい。
ただ単に俺のことが心配な姉貴の情報操作だと思うんだけど、詳しくは聞いていない。
「向こうについたら連絡しなさい。無理はするな」
無口で厳格な親父までもが見送りにきてくれるとは思っていなかった。
俺のアメリカ行きに最後まで苦言を呈していたのは親父だ。
でも、最後の最後で認めてくれたようでこうして見送りにきてくれたうえにその言葉にちょっとぐっときた。
だけど、いい大人がこんな人が溢れる空港で泣くなんて恥ずかしいし、何より俺はまだ何も始めていないのだから泣いている場合じゃない。
飛び出すからには何か掴んで帰らないと格好がつかない。
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