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おふくろと姉貴の後ろで一際背の低い彩夏がむっとした表情で黙っていたが、俺と目が合うと徐に持っていた紙袋を押しつけてきた。
「これ」
「何?」
「みんなからの餞別。機内で退屈だろうからって」
「こんなに?鞄入るかな」
紙袋をちらっと覗き見ると、本とかゲーム機とかごちゃごちゃ入っている。
荷物検査に引っ掛からないと思うし、 まぁ、ありがたくいただいておくことにしよう。
俺は改めて佇まいを正すと、見送りにきてくれた四人に頭を下げた。
「ありがとう。また着いたら連絡する」
「いってらっしゃい」
そう言うおふくろが泣きだすものだから、困った。
普段、気丈なくせに子供のことになるとすぐに泣く癖はあったけど、まるで今生の別れのような惜しみ方に呆れつつも心配になってくる。
後ろ髪を引かれる思いはしたけど、時間が迫ってきていて、俺はみんなに手を振って歩きだした。
広い空港を行き来する人を避けながら歩いていると、胸に少し去来する寂しさ。
ここからは本当に一人だ。
周りにどれだけ人がいても、これからは一人で決めていかなければいけない。
朝比奈の家に縛られなくなったということは、その支えもないということ。
もう逃げや甘えは通用しない。
俺は気を引き締めると、前を向いてしっかりと一歩ずつ歩いていく。
荷物検査を終えて搭乗手続きを済ませて飛行機に入る。
チケットを見ながら自分の席を探した。
あった。
窓際の席。
ちょうど窓から右の翼が見える。
必要なものをリュックから出して、あとは上の棚に上げる。
予定どおりの出発時間。
離陸体制に入った飛行機はあっという間に空へと浮き上がっていく。
暮らしていた東京の街並みがすぐにミニチュアみたいに小さくなっていくのを窓から見届ける。
どんどん離れていく日本の地。
世界から見れば決して大きな国ではない。
その中のさらに小さな家に俺は捕らわれていたかと思うと、苦悩した日々がちょっと呆気なく感じてしまう。
それから思うのは、日本に残った彼女のことだ。
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