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単純にそう思っていた。
あの人が再び現れるまでは。
次の日、夏季休暇中だったけど特にすることがなくて。
でも、冷蔵庫の食料が尽きてきたから買い物にいかないとと日が照る中、外に出た。
容赦なく照りつける日差しに日が沈んでからにすればよかったと後悔しかけた時、視界に白いワンピースがひらりと入ってきて。
「久しぶり」
笑って俺の前に立つ彼女に息を呑む。
めぐみさん。
兄貴の前の奥さん。
そして、俺の初恋の人だ。
彼女は俺に優しく微笑みかけていたけど、その目は全然笑っていなくて。
真夏の空の下、対照的に冷え切った氷のような瞳が俺を捕らえて離さない。
暑さのせいじゃない汗が、じわりと全身から噴き出してくる。
「ごめんね。いきなり押し掛けちゃって」
「い、いや、そんなこと……」
「私ね、離婚したの」
めぐみさんはたじろぐ俺なんて見えてないみたいに、同じ微笑を浮かべたまま淡々と言葉を発していく。
「それは……」
両親からそれとなくその話は聞いていたから驚かなかった。
元彼の下に戻った彼女が幸せになれなかったことはすごくショックだったから。
せめて、俺の犯した罪で彼女が幸せになっていてくれたらまだ俺の心も救われたのにどこまでも運命は上手くいかない。
「あなたがせっかく協力してくれていたのに、ごめんなさいね」
知っている。
彼女は全部。
俺が相手の男に協力して、偶然を装って二人を再会させた。
きっと離婚する時に、全部聞いたのだろう。
「ねぇ、夏月くん」
固まる俺に彼女が一歩近づいて見上げてくる。
うるさいほどのセミの鳴き声の中で、彼女の声は決して大きくないはずなのに。
「お願いがあるの」
聞きたくないのに、耳から入ってきた声は頭の中で反響して目の前が真っ暗になりそうだった。
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