ヒーロー

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めぐみさんの要求は、兄貴の再婚を破談にすること。 そのために、真琴さんに近づいて傷つけて、兄貴が彼女を捨てるようにする。 「夏月くんならしてくれるよね?」と可愛く小首を傾げるめぐみさん。 そんなことできるわけがない。 兄貴はせっかくまた共に生きていこうと思える人に出会ったんだ。 俺のちっぽけな劣等感のせいで失った幸福をまた潰すわけにはいかない。 でも、それは目の前の人も同じで。 めぐみさんの寂しさを利用して兄貴を貶めたのだから、拒絶の言葉も出てこない。 返事をしない俺に彼女の顔からすっと微笑みが消えて、代わりに瞳と同じ冷酷な表情が現れた。 「嫌なら断ってくれてもいいけど。それなら別の手段でやるだけだし」 そう言う彼女は脅しというより、本気で考えているようで、俺はそこで頷くしなかった。 めぐみさんを野放しにしてしまうのは何よりも恐ろしかったし、何よりそこまで彼女を追いこんでしまったのは俺の責任だ。 俺は罪を償うために彼女の言いなりになるしかなかった。
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