ヒーロー

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だけど、真琴さんに近づけば近づくほど、手が出せなかった。 彼女はとても清らかな太陽のような人だった。 よく笑うし、よく食べる。 でも、何かあれば一人で落ち込んでいるから気になって仕方ない。 顔に感情が出やすいタイプ。 だからこそ、嘘偽りがない。 真っすぐで、清廉で。 俺のことも『そのままでいい』って言ってくれた人。 今までだって、そうやって言われたこともある。 『気にし過ぎだ』とか『今のままで十分素敵だ』とか。 でも、それはどれも俺の本心なんてどうでもよくて、適当にあしらえた言葉を並べただけのもの。 そうやって慰めておけばいいだろう的な感じが表情や声音から滲み出ていて、余計に俺を卑屈にさせてきた。 真琴さんは嘘がつけないのもあるけど、俺のこと本当に理解してくれようとしているのはわかったから。 どこか俺と真琴さんは似ていると思っていたからかもしれない。 この人なら俺のことわかってくれるかもと淡く期待していただけに、本人は何気なく言っただけかもしれないけど、彼女の言葉はすっと胸に沁み込んできて、男なのに泣いてしまった。 彼女を知るたび、最初押し殺していた感情が息を吹き返してきて、胸を高鳴らせる。 でも、真琴さんは兄貴のことが大好きで、他の男なんて目に入ってない。 キスをして告白まがいのことをしてみたけど、兄貴の隣で幸せそうに笑う彼女を見ていると俺の入る余地なんて最初からないってわかってた。 それは俺の胸をチクリと刺すけど、やっぱり二人を引き離すことはできない。 だからといって、めぐみさんにいきなり言ったとしても聞きいれられるとは思わない。 激昂されて真琴さんに危害を加えられたら駄目だと彼女の計画に従うふりをしながら、どうやって説得していくか機会を窺っていた。
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