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それが、どうしてああなってしまったんだろう。
結納のすぐ後、真琴さんの妊娠が発覚して。
それから真琴さんのつわりがひどいことから元気がないとは聞いていたけど、会いにはいかなかった。
単純に兄貴の子を身籠った彼女を見るのはまだ失恋して間もない俺には苦しかったのもあるし、彼女にも気を遣わせる気がしたからだ。
でも、二人の式が近付いた二月初め。
彩夏のぽつりと漏らした言葉に耳を疑った。
『自由がないのかもしれない』
兄貴が真琴さんを束縛しているなら、俺のせいなのか。
俺が彼女を好きだということを兄貴は何となく感じ取っている様子だったから。
過去に他の男に伴侶を奪われた傷がそうさせているのか。
兄貴に訊いてみないとわからないが、少なくとも真琴さんが苦しんでいる。
何をやっていたんだ、俺は。
あれだけ彼女の幸せを見守ろうと決めていたくせに、妊娠という事実に勝手に傷ついて目を背けていた俺は自分自身に舌打ちをしたくなった。
俺のせいで兄貴がおかしくなってしまったのなら。
俺のせいで彼女が苦しむ結果になったのなら。
ちゃんと、元に戻さないと。
それが、俺のけじめだ。
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