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それはヒーローの小さなフィギュアが入っていて、俺の幼い頃からもう何代目になるのか、今活躍している戦隊ヒーローがパッケージに描かれている。
まだ、この食玩のシリーズが売っているなんて知らなかった。
「うわ、なつかし……」
思わず呟きつつも頭に浮かぶ人物。
兄貴だ。
これを入れた人間が誰かはすぐにわかった。
だって、これは俺がよく兄貴に買ってもらったやつだからだ。
小学校低学年の頃、俺はテストの返却がいつも待ち遠しかった。
先生から「朝比奈夏月くん」と呼ばれて赤ペンが入った答案用紙をもらって、その数字が見事100だった時、俺はHRが終わると鉄砲玉のように教室から飛び出して家までダッシュした。
家に帰ったとしても目的の人物はまだ高校だったから俺は走って吹き出してくる汗をタオルでごしごし擦りながら玄関先に座って待つのが恒例。
早い時はものの数十分くらいで帰ってくるんだけど、部活の都合で遅くなると夜になる。
その時までじっと玄関に座っていたから、両親によく『忠犬ハチ公のようだ』と呆れられた。
「ただいま」
夏の終わり、夕闇が降りてくる時間、玄関の扉を開けて兄貴が帰ってくる。
それに飛びつかんばかりに俺は勢いよく立ち上がった。
「にーちゃん!」
兄貴の前に立って、その日返ってきたばかりの満点の答案用紙を見せる。
すると、兄貴は普段あまり崩さないその顔を緩めて俺の頭を撫でるのだ。
「お、よくやったな」
「約束!」
「わかったわかった。引っ張らなくても行くよ」
帰ってきたばかりの兄貴をそのままぐいぐい引っ張って連れ出そうとする俺。
そこにちょうど夕飯ができたと呼びにきたおふくろが不機嫌な顔をする。
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