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「ちょっと、ご飯食べてからにしなさい」
「えー!やだ!」
何のためにずっとここで待っていたというのか。
その苦労を全くわかっていないおふくろは俺の駄々にますます怒りの角を出そうとするけど、
「すぐだから」
兄貴が窘めると「もう、早くね」とすんなり折れるのだから、兄貴は不思議な力を持っているんだとこの時子供ながらに思った。
彩夏に見つかって「私もついていく」と騒ぎ出される前に俺は兄貴の手を引っ張って家を出るのがいつもの流れ。
ブラコンの妹に見つかれば俺たち二人で出掛けることに悋気を起こすに決まっていたからだ。
手を繋いで向かったのは近所のスーパー。
そこのお菓子売り場の定位置に立つと、目の前に積まれた長方形の箱を物色する。
「一つだけだからな」
と言う兄貴の言葉を受けながら、インスピレーションを感じるためお菓子箱に手をかざして左右にうろうろさせる。
「うーん、これ!」
唸りを上げて選んだその箱を持ってレジへ。
兄貴が会計を済ませて店の外に出ると、さっそくビニールを破って手の平に載る小さなフィギュアを取り出す。
「また緑だ」
残念すぎて俺は肩を落とす。
どういうわけか俺はこいつばかりを引き当てる。
がっくりと項垂れる俺の横で、兄貴が食玩とともに買ったアイスキャンデーを食べながら笑った。
「いいじゃないか」
「僕は赤が欲しいの!」
「そのうち当たるだろ」
「また百点取らないといけないじゃん」
「頑張ればまた取れるだろ。言っとくけど、本当はそういうごほうびがなくてもしっかり勉強しないと駄目なんだからな。あと、お菓子もちゃんと食べる。おもちゃだけ欲しくてお菓子だけ溜まっていってるだろ」
「ちぇ」
兄貴の正し過ぎる正論には子供ながらに反論する余地もなく俺は丸いナッツ入りのチョコレートを口の中に放り込む。
途中で、チョコレートとアイスを交換して、男二人、日が落ちた道を歩いて帰って。
その道中、学校の話とか、友達の話とか、俺の話をずっと兄貴は聞いてくれていた。
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