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いつも通る道じゃなくて。
少し遠回りでゆっくりと歩いて帰った。
兄貴はあの頃のことを覚えていた。
そして、ちゃんとわかっていたんだ。
俺が欲しかったのは別にお菓子でもフィギュアでもなかったってことを。
家族はみんな身体の弱い彩夏を優先する。
俺に構ってくれる口実が欲しくて、お菓子が欲しいふりをしてテストも頑張ってた。
運動会、彩夏が熱を出して親が来れなくなった時だって、代わりに兄貴が来てくれた。
「あら、若いパパねー」と周りから勘違いされて、兄貴けっこう傷ついていたっけ?
顔にはなかなか動揺を出さない兄貴だけど、あの時は苦い顔をして固まっていた。
でも、俺は熱を出して家で両親に看病されている彩夏よりも優越感があって。
兄貴が俺のためだけに来てくれたことが嬉しかったんだ。
菓子箱ひとつから次々と兄貴との思い出が蘇ってくる。
それと同時に気づいた。
少し前に教え子の女子生徒に言われた言葉。
『だってヒナ先生はみんなに平等だもん』
それは全部、兄貴を意識していたから。
兄貴は人を見て態度を変えたりしない。
ちゃんと筋をつけて行動する男だ。
だから頭のどこかで兄貴だったらどうするかっていうのがずっとあって。
俺はそれを模倣していただけ。
俺にとって兄貴が何よりの理想で、目指す場所だった。
兄貴みたいになりたかったんだ。
だから、先生として褒められても全くしっくりこなかった。
俺は兄貴の真似をしているだけだから。
みんな慕っているのは俺ではないと心のどこかでわかっていたから。
仮面を被った俺を先生と呼ぶ生徒の前で段々罪悪感が膨らんでいって、結局中途半端なまま逃げ出すような形になって。
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