その男、裏切り者につき

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「お前、精神科に行ったほうがいいんじゃないのか?」 「えー、それマジで言ってる?傷つくんだけど」 「傷つかないと言ったばかりだろ」 僕の冗談に正確に突っ込んでくるのは、同期でもあり、上司でもある朝比奈雪弥。 この間、二カ月前に式を挙げたばかりの新婚ホヤホヤ。 今も愛妻弁当を会議室のデスクに広げながら僕に説教してくる。 朝比奈の奥さんは僕の直属の部下だった。 旧姓、本庄真琴。 彼女はその美貌から『白百合の君』と裏で謳われ、営業部の中で密かにアイドルだったのだ。 まぁ、愛想がなさすぎて玉砕するのが怖くて誰もアタックしなかったけど、その上をいくこの無愛想男が落としたのだから運命ってわからない。 そういえば、朝比奈の結婚式の時、ちょっとだけ面白いことがあった。 それは式の前の待ち合いでの時間を持て余して、ぶらぶらと会場内を歩いていた時だった。 廊下を曲がったところでタキシード姿の朝比奈を発見した。 式前に主役がこんなところに出てきていいのか。 自分が許可なく歩きまわっていることは目を瞑りながら、とりあえず挨拶をしようかと朝比奈に近づいた。 朝比奈は友人らしき男と話していた。
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