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「真琴の腹が大きくならないんだ」
「腹?ああ、赤ちゃんね」
本庄くんは表向きは寿退社ということになっているけど、実際は結婚式の前に妊娠していた。
無事に安定期に入って夏に出産するとは聞いていたけど、朝比奈は彼女のことがいろいろと心配らしい。
「そうだなぁ、僕の奥さんは臨月近くになってからけっこう大きくなったっけな」
どんどん大きくなっていく妻のおなかを見ていて、さすがに冷酷な僕も人間の神秘を感じたものだ。
それを聞いた朝比奈は浮かない顔。
こいつは本庄くんのことになると子供みたいになる。
まだ恋を初めて知った頃の少年みたいな。
普段は偉そうにしれっとした顔で座ってるくせにね。
そんなに好きかねと半ば呆れながらも僕は割り箸を置いた。
「本庄くんの体質なのかもしれないし、医者は何も問題ないって言ってるんだろ?」
「ああ」
「あんまり君が気を揉み過ぎても、本庄くんを不安にさせたら意味ないしね。案ずるより産むがやすしだよ」
「そうだな」
僕の気休めの言葉でも朝比奈の顔が少し解れたから、ほんと単純。
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