その男、裏切り者につき

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でも、まぁそのほうが何かと都合がいいけど。 僕が楽しく過ごすためには朝比奈の弱味を握っておいて損はない。 「あとは?何かないの?」 「特には」 ないのかよ。 いくら新婚ホヤホヤだからって不平不満の一つや二つあるもんだろ。 つまらないなぁ。 昼飯に誘われた時は面白いかなと思っていたけど、完璧に肩透かしだ。 と、天を仰ぎかけた時 「……あ、でも強いて言うなら」 思い付いたように朝比奈が言い出したから、僕は上を向きかけていた顔を戻す。 なんだ、あるのか。不満。 まぁ、どうせ大した不満じゃないんだろうけど一応聞いておくか。 「言うなら?」 「幸せすぎて怖い」 「……」 とても真剣な顔で言うものだから僕は一瞬意味がわからなかった。 幸せすぎて怖いって............ 「......ぷっあはははは!」 一拍おいて、大爆笑してしまった。 「あははっさすが一度どん底を見ているだけあって言葉の響きが重いよ!」 「わ、笑うな!」 デスクを叩いて笑う僕に朝比奈は怒りながらも普段崩れない鉄面皮を赤くしている。 自分のキャラじゃない発言に我に返って恥ずかしくなったようだ。 うん、やっぱり誘いに乗って正解だった。 腹が捩れるほど笑ったのなんて久しぶりだ。 やっぱり、こいつは僕を退屈させないなと思いながら、目尻に浮いた涙を拭う。 「ご、ごめん、そうやってすぐ怒るとストレスで寿命縮むよ」 「誰が怒らせていると思ってるんだ」 「あ、僕?」 「間違いなくお前だ」 語気荒く弁当を咀嚼する朝比奈。 あーあ、そんなに怒ってたらせっかくの愛妻弁当が台無しだよ。 そう言いかけた時、あることを思い付いて僕は頭の中で手を叩いた。 「朝比奈。いいこと思いついたんだけど」 「いや、いい」 「まだ何も言ってないよ」 「お前のいいことっていうのは大概よくないことだ」 「そんなことないよ。君のことを心配してるんじゃないか」 僕の言葉に朝比奈が訝しげに眉をひそめる。
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