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予想通りすぎる反応に僕は思わずため息が出てしまった。
「君、本庄くんがどれだけみんなに愛されていたか知ってる?」
「それは、まぁ」
「男が多い営業部で『白百合』なんて呼ばれて。みんなお近づきになりたくても、冷たく袖にされてきたわけだよ。それが、いきなり四年ぶりに出世して帰ってきた若い部長に持っていかれてだよ?どれだけみんなから君、恨まれてると思う?」
ここまで言ってようやく理解したのか朝比奈の目が見開かれる。
この男は仕事のこと以外、いや、仕事と嫁以外のことになると鈍すぎる。
「元からの出世に対する妬み嫉みのうえに、さらに美人を掻っ攫っておいて、部下との付き合いも悪い。僕は純粋に心配しているんだけど」
僕が苦言を呈すると朝比奈は箸を置いて再び腕組み。
「……そうか、やっぱりこのままではまずいか」
本人も周りから畏怖されていることは知っている。
だからこそ、大所帯である営業本部の統一が取れているのだけど、その分恨みやらも買っているわけで。
足を引っ張ってやろうとか、引きずり下ろしてやろうとかいろいろと黒い考えを腹に抱えている奴もいるのが事実だ。
僕が言うのもなんだけど、ほんとにこいつは人気がないんだから。
媚びへつらえとは言わないが、もう少し円滑な人間関係を築けばいいのにと思いながら、僕はある提案をした。
「これは一つ親睦を深めるために、何人かで飲みに行こう。メンバーは僕が声かけとくから。明日ね。一日くらい本庄くんも付き合いなら遅くなっても怒らないだろ?」
「まぁ、それは多分」
僕からの提案が意外だったのか、見開いた双眸を瞬きをする。
僕がまともなことを言って、よっぽどびっくりしているらしい。
僕はそこには憤ることなく、にっこりと笑みを返して「じゃあ、明日だからね」と念押ししてコンビニ弁当の続きを食べた。
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