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「おい」
「何?」
「これはどういうことだ」
案内した店の前で朝比奈が看板から僕の顔へと視線を移す。
これでもかという顰めっ面に吹き出しそうになるけど、我慢して平然と答えた。
「どういうことってみんなと親睦を深める会だよ」
「それがどうしてキャバクラなんだ!」
「部長の奢りでキャバクラだったらみんな来るでしょ」
ただ部長と飲むなんてみんな嫌がるに決まってるから、甘い飴をちらつかせただけだ。
事実、僕の部下である営業一課の男たちは皆一斉に「行きます!」と頷いたのだ。
いつの時代も男は女に弱い。
「はいはい、とりあえずみんな中入っちゃったし、僕たちも入ろう」
入り口で立ち往生する朝比奈の背を押してドアを開ける。
すると、見る見るうちに仏頂面が焦り出した。
「お、おい、俺は......」
「君も本庄くんが妊娠してて溜まってんじゃないの?」
「っ、て、てめぇ!」
「部長ー!女の子たちもう来てますよー」
ウキウキ顔の部下たちはもう既に席について手招きしている。
その手前、ジタバタするのは威厳が許さないのか朝比奈はいつもの五倍増しくらいの威圧感を出してソファに座る。
普通なら女の子はこのにべもない態度に恐れおののくのだけど、そこは夜の蝶たち。
いろんな客を接客しているから、これくらいじゃへこたれないようで、むしろ『部長』という肩書を聞いた途端、目を一瞬輝かせた。
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