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「正臣さん、最近楽しそう」
ベッドの中で僕の隣に横たわった皆川真優(みながわ まゆ)が言った。
彼女は営業部一課が担当する直営店の販売員だ。
そして、いわば僕たちは不倫関係で、今まさに情事が終わって緩やかな空気が流れている最中。
唐突に言われた僕はベッドのヘッドボードに凭れて小首を傾げる。
「そう?」
「うん、部長がアメリカから戻ってきてから、ずっと部長の話するし」
「気のせいじゃない?」
「ううん、絶対そう。妬けちゃう」
「妬けるって、あいつ男だし。僕、そっちは興味ないし」
おかしなことを言うものだ。
僕は単純にあいつの仏頂面が崩れる様が見たいだけだ。
十も離れたこの子と関係を持つようになった始まりは、本当に偶然だった。
彼女の元彼が金にだらしない奴で、ついに痺れを切らした彼女が別れを突きつけたけど、相手は全く応じてくれなかったらしい。
そのうえ相当執着心が強い男だったらしく、連日家に付きまとわれて、そのうえ勤めている店にまで押し掛けられて。
その時たまたま店に視察に来ていた僕は、仕事という建前でその男を追い払ってやった。
それが切欠で惚れられて彼女から猛アタックされて、不倫関係でもいいというからこうして定期的に会っているわけだ。
そんなこと言ったら朝比奈にまた説教されそうだけど。
「君ももっと朝比奈みたいなの捕まえないと、しがない課長クラスじゃ不倫の割に合わないよ」
「いいの。正臣さんってどこか放っておけないっていうか。寂しそうなんだもん」
「寂しい?僕が?」
「うん」
「そうかなぁ、自分じゃ全然わからないよ」
柔肌を擦り寄せて甘えてくる彼女を腕に抱きながら苦笑した。
僕が寂しい?
冗談じゃない。
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