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その後少しそのまま真優と他愛ない話をしてからホテルを出た。
駅で方向が違う彼女に手を振って別れて、ホームに上がったところでちょうど来た電車に乗った。
車内は酒に酔ったサラリーマンとかOLとか。
中には僕みたいな男が若い女を連れている姿もあって、世の中、どいつもやっていることは同じなのだと疲れた頭で思ったが、すぐにどうでもよくなって流れる夜の街をボーッと見ていた。
「ただいま」
小さく呟きながら、マンションの扉をゆっくりと開ける。
玄関は電気が落とされていて、その先のリビングから蛍光灯の明るい光が漏れて暗い廊下に煌々と浮き上がって見える。
そこから微かに漏れてくる話し声。
僕は軽く息を吐くと靴からスリッパに履きかえて、わざと響くように廊下を歩いていった。
リビングを開けると妻がわざとらしくソファから立ち上がった。
その手には携帯が握られていて、僕の顔を見ながらそそくさとデニムのポケットに仕舞う。
わかりやすい。
思わず苦笑が漏れてしまいそうになるが、いつもの調子でにこりと笑顔を貼り付けた。
「ただいま」
「お、おかえりなさい。今日も接待?連日大変ね」
「まぁ昨日のは部内の親睦会だったけど、今日のは取引先との接待」
と伝えていたはずだけど、よほど関心がないのか記憶に留めていなかったようだ。
実際、僕も嘘をついて浮気相手と会っているのだから責められないけど。
お互いがお互いのことに関して踏み入れず、上辺だけ取り繕って笑っている。
これぞ、まさに仮面夫婦。
自分のことだけど、ここまで絵に描いたそれだと笑えてくる。
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