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僕だって、最初からこんなに薄情な性格だったわけじゃない。
少しずつ少しずつ、でも人より敏感に世の中の辛辣さを学んでいっただけだ。
それは子供の頃から。
子供は無邪気と言うけれど、無邪気ゆえの残酷さがそこにはある。
善悪の区別がまだあやふやで集団で行えば怖くないという心理。
ささいなことですぐに除者にして、それを悪とも思わない。
そんな残酷な場面を幼いながらに何度か見ているうちに、僕はある考えに至った。
裏切られるくらいなら深入りせず自分だけを信じているほうがいい。
そのほうが常に周囲を気にして怯えるより気が楽だ。
それからずっと当たり障りのない関係を周囲と築きながら、恋人ができてもプライベートに踏み入れないギリギリのラインを保っていた。
だからか、誰にのめり込むこともなくて、面倒くさくなればすぐに関係を断ってきていた。
だけど、それを変えてくれた人がいた。
大学の同回生だった彼女。
たまたま暇つぶしで入ったテニスサークルで一緒で、気さくに俺に話しかけてきて。
表面上の対応だけしていると、空気を読まないのか「よそよそしい!」と怒りだす。
そして、俺の周りをうろちょろして、事あるごとに構ってきて。
そうしているうちに情が移ってしまって「どうせ一緒にいるなら付き合う?」と僕から言った時は自分でも驚いた。
自分から他人への興味というか、一緒にいたいと思ったのは彼女が初めてだったから。
彼女は「その台詞、もっと他にないの?」と最初怒っていたけど最終的には笑顔で頷いて、僕らは付き合うことになった。
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