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康乃は快活で、冷めた僕の内面なんかお見通しのようでいつもバカなことをして笑わせようとして。
そんな彼女が僕なりに愛おしくて、でも表面にはなかなか出せなかったけど大切にしようと心に決めた。
初めて、他人を信じていた頃だった。
それがある時、急に壊れた。
「妊娠したの」
大学四回に上がったばかりの頃。
就職活動に追われてなかなか康乃にも会えない日が続いていた時だった。
その日は僕のゼミがある日で、大学に行くと康乃が教室の前に立っていた。
「話がある」と連れていかれた学舎裏の庭園のベンチに座った途端、急に投げられた言葉に僕は驚きで隣の康乃の顔を見る。
でも、彼女は顔を俯かせたままじっと地面を見つめていた。
「まだ六週目に入ったばかりだけど」
だって、それって……。
全身の筋肉に力が入って、鼓動がドクドクと早くなっていく。
「正臣の子じゃない」
この時以上の衝撃は、今に至ってもなお味わったことはない。
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