2881人が本棚に入れています
本棚に追加
/230ページ
康乃と別れてから、すぐ僕の就職先が決まった。
『fleur』というアパレルのインナーメーカー。
主に女性向けの下着の製造販売で正直男の僕からしてみれば全く興味のない分野だけど、この時代は就職氷河期で贅沢は言っていられなかったのだ。
会社としても正直業績は芳しくないようだけど、とりあえずの行き先さえ決めて、後はキャリアを積んで転職してもいいかと考えていた。
康乃のことで精神が疲弊していた部分もあってか、僕は深く考えず、妥協という形で今の会社に入ったのだ。
そこで、出会った。
朝比奈 雪弥と。
朝比奈は新入社員の中でも目を引いた。
特に派手な容姿をしているわけではない。
顔立ちに品があって整った様は『美丈夫』という単語が合うけれど、そういう意味で目が止まったのではない。
姿勢よく静かに座っているあいつはできる人間が放つオーラみたいなものがあった。
僕は昔から浅く広くの人間関係を築いてきた分、その人間の『利用価値』がどれほどのものか大体感知できた。
もちろん、僕の見立ては当たっていて、朝比奈は営業部の中で若手の中でも群を引いて成績がよかった。
それを社長の親族だから贔屓されていると陰口を叩く輩がいたが、そんなものは負け惜しみでしかない。
朝比奈は才能があった。
それを上手く利用しないで陰で吠えているなんて馬鹿としか言いようがない。
僕は朝比奈とつるむことで甘い汁をいただく算段をした。
こいつはいずれ絶対上の地位に就くのだから、今から関係を築いていても損はない。
結局、世界は虎よりもその威を狩る狐のほうが得をすることを僕はよく理解していた。
最初のコメントを投稿しよう!