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と内心思いながらも朝比奈のことは嫌いだった。
愛想がないこの男は基本的に恵まれていた。
うちの社長の親族なのだからそれなりの裕福な家庭で育ったのだろう。
育ちがいいのは所作から滲み出ているからわかる。
他人より恵まれた環境で育ってきたから高慢な態度がとれるのだ。
そう考えると無性になぜか胸がむしゃくしゃした。
朝比奈という男を『利用する』価値を見いだせても、好きになれないものはなれなかった。
そんなある日。
入社二年目の冬を迎えた僕が帰宅している途中で、朝比奈を見かけた。
見かけたというより発見したというほうが正しいかもしれない。
冬の寒い空気に首を竦めて歩いていると、コーヒーショップのウィンドウ越しにあいつが座っているのが見えた。
向かい側には黒髪のロングヘアーの女。
綺麗な顔立ちで長い足を組んでいる様は絵になっている。
今まで見たことはないから、少なくともうちの社員ではないと思う。
女は朝比奈を前に大層機嫌が悪い様子。
すぐピンと来た。
朝比奈の女だと。
そして、今最高に痴情のもつれ中であると見た。
僕は好奇心を刺激されてそそくさと歩道から店へと入った。
朝比奈に気づかれないよう背後の席に座り、ざわついた店内で聞き耳を立てる。
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