2881人が本棚に入れています
本棚に追加
/230ページ
「私と仕事どっちが大切?」
女は眉を寄せて腕を組みながら苛立たしげな様子。
そうか、朝比奈が仕事漬けすぎて拗ねているのか。
確かにこいつは仕事中心で残業なんて苦でもないみたいな顔して働いているけど。
女にありがちな『構ってちゃん』らしい。
彼女の拗ねて不満そうな顔を前に朝比奈の顔は見えないけど、あのいつもの平静とした声が聞こえてきた。
「それは、今は仕事だが……」
思わず、吹き出しそうになった。
このタイミングで本心を言うなんて想像もしてなかった。
それは彼女もそうだったらしくて一瞬ぽかんと口を開けて、でもすぐに顔を真っ赤に染め上げて立ち上がると大きく右手を振りかぶった。
バチンと派手な音とともに朝比奈の顔が叩かれた。
「最低!」
キンキン声で叫んで鞄を乱暴に掴むと店から出ていく。
この騒ぎで静まり返る店内。
みんなが残された朝比奈を見てはいけないと思いつつも視線を送ってしまう。
「くっ……」
駄目だと思いながらもついに我慢できなくて僕は震える身体から息を漏らすと
「あはは!」
盛大に笑い声を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!