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それからも僕らは百貨店部門の営業二課で一緒に働いた。
会社の業績は少しずつだけどいい方向に向かっていた。
やはり、仕事をする上で成果が見えるのはやりがいを感じる。
それが朝比奈といると顕著に表れたから妥協で決めたこの仕事もなかなかいいものだと思い始めて。
転職していく同期もいた中で五年以上経っても僕が残っていることが自分でも驚きだった。
直営店部門の一課に朝比奈が課長として異動になったのは三十手前。
その時に、あいつの結婚が決まった。
遠い親戚から選んだらしいけど、ちゃんと気に入っているようで仏頂面の中にも穏やかさが見られて、僕はちょっと面白くないと思ってしまった。
どうしてなのか。
ただ、朝比奈が幸せそうで遊び甲斐がないっていうのもある。
結婚式の時、奥さんを紹介してもらった。
華奢でいかにも女という感じの人で、男としては守ってやらねばという気持ちになるようなタイプ。
だけど、大人しそうに見えても人間っていうのは腹の中で何を考えているかわからない。
人は誰しも内に秘めた『毒』を持っている。
それが僕は女のほうが強い毒を持っているような気がする。
それは康乃のことで男の僕ではわからない女の部分に恐れているからなのか。
理由は明確じゃないけど、ただ『可愛い』とか『綺麗』というだけでは女を見れなくなっていた。
とはいっても一番の出世頭の朝比奈の結婚が羨ましかっただけなのかもしれないと僕は一瞬過ぎった懸念をこの時頭から消した。
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