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次の日。
会社の昼休み、僕と朝比奈はいつもの小会議室にいた。
二人に挟まれた机には一枚の紙。
離婚届だ。
五年前と同じ光景だけど、今度の当事者は僕。
「……浮気がバレたのか?」
「いや、それは違うみたい。というか、向こうのほうが先にしてたしね」
離婚したいと妻から言われたのも大して驚かなかった。
おおよそ、浮気しているのはわかっていたから。
相手は高校時代の同級生。
同窓会に行って再会して、そのまま不倫を続けて二年。
いよいよ僕と別れる決心をしたそうな。
申し訳なさそうに話す妻を前に僕はただ黙って耳を傾けて、最後に「わかった」とだけ言った。
妻が......紗江が他の男に惹かれていると察した時から覚悟を決めていたから驚きもなければ悔しさもない。
だって、僕も不倫していたし。
だから流れのまま離婚届に名前を書いた。
書き終わった僕に紗江が言う。
「あなたは最後まで冷静で……淡々として、全然私に本心を見せてくれなかった」
「そうかな」
「ええ」
それっきり会話が切れる。
本心。
それが何なのかわからない。
今まで僕が誰かに心を曝したことなどないからそう言われて当然なんだけど。
その分、紗江と舞には気を遣ってきたつもりだ。
いい夫、いい父を心掛けて。
それがこのような結果になってしまった。
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