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「本庄くん」
「はい?」
僕の声に首を傾げる彼女。
白磁の肌に黒く潤んだ瞳。
この麗しい女も内側には毒を持っている。
「君、朝比奈を裏切ったら許さないよ」
最初は利用するだけのつもりだった。
朝比奈は『選ばれる側の人間』で、僕がいつも裏切られて感じていた劣等感なんて味わったことがないと思っていたから、いけすかなくて。
朝比奈と僕は性格は真逆。
決して交わらないと思っていた。
だけど、裏切りに関しては僕たちは最も敏感だった。
僕は裏切られたことで人を信用しなくなって、朝比奈は依存するようになった。
全く正反対の僕たちだけど、とてもよく似ている。
だから、僕は朝比奈への裏切りを許さない。
それが、友情なのか。
自分と重ね合わせているだけなのか。
そこはまだ定かではないけど、自分は裏切り者なのを棚に上げてよく言えたものだと思う。
案の定、僕に言われて一拍きょとんとしていた本庄くんだったけど、すぐにその白い頬をぷくっと膨らませた。
「そんなことしません。それよりも鳥居課長も雪弥さんをいかがわしい店に連れていかないでください」
むっと眉を顰めて言う姿は妊娠して少しふくよかになったから大福みたいだ。
思わず吹き出してしまった。
「ごめんごめん。でもキャバクラはいかがわしくは……」
「だめです」
またしても丸々と膨れていく。
この様子では当分大丈夫なようだ。
僕が懸念する必要もなくバカップルだった。
だからこそ朝比奈が戻ってくるまでには機嫌を元に戻しておかないと、僕が怒られる羽目になる。
そう思って、本庄くんのほうに自分のケーキの載った皿をススッと押し進めた。
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