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「時期的にハネムーンベイビーですかね」
「そうかも」
新婚旅行で行ったニューヨークを思い出す。
あの時は楽しかった。
ブロードウェイで劇を見て、夏月に街を案内してもらって。
末の弟に関してはアメリカに単身渡ってどうなることやらと気を揉んでいたけど、ちゃんとやっているようだったからほっとした。
あの子の場合、失恋の傷は尾を引くだろうけど、自暴自棄にはなっていないみたいだった。
弟二人が惚れた美しい女性はおいしそうにベーグルサンドを頬張っている。
「真琴ちゃんのところは予定日もうすぐよね?」
「ええ、あと一週間くらいです」
もぐもぐと咀嚼して答える真琴ちゃん。
でも、何か思い出したらしくて、プッと小さく破顔した。
「雪弥さんったら自分が出張中に私が産気づいたらどうしようってうるさくてうるさくて」
「あー、ごめんね。バカな弟が」
「いいえ、今日帰ってくるから何事もなくてきっと安心します。でも、この子元気で。よくお腹蹴るから男の子かなぁって二人で言ってるんですけど」
そう言って愛おしそうに膨らんだお腹を撫でる真琴ちゃん。
彼女の体質からか臨月になっても、他の妊婦よりお腹が大きくなっていない。
それに関して、雪弥が大層不安がっていたが、胎児は至って順調に成長してもうすぐ出産予定日だ。
そんな時期に出張に行かなければならない心配症で溺愛症の雪弥は、出かけるギリギリまで眉間に皺を寄せて右往左往していたことだろう。
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