よく来たね

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だから、こんなにくたびれているのか。 ブランド物のスーツもシャツもヨレヨレだし、髪も乱れている。 そこに普段、完璧主義者の雪弥の面影はない。 まるで仇を見るように分娩室を睨む弟を観察していた時、分娩室の扉が開いた。 中から担当医の女医さんが出てくる。 「御家族の方?」 「はい」 先生に呼ばれて雪弥が勢いよく立ち上がる。 先生はにっこりと目を細めた。 「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」 「おんな、の子……」 「はい、母子ともに健康です」 先生の言葉に雪弥は呆けていた顔をすぐに喜色で塗り替えた。 「あ、ありがとうございます!」 深々と頭を下げる雪弥。 それに倣うように私たちも礼を言いながら頭を下げる。 よかった。 本当に。 雪弥がいなかった分、気を張っていた時間が長くて、ほっとしてしまって全身から力が抜けてしまいそうになる。 ふぅとため息を吐くと同時に背中をそっと支える感覚。 振り返ると冬吾くんが私の背に腕を回して微笑んでいる。 「お疲れ様」 その笑顔と優しい声に笑みを浮かべそうになって、はっと我に返る。 駄目だ、ケンカ中だった。 思いっきり無視すると冬吾くんが不服そうな声を出す。 「えー、なんか怒ってる?」 怒ってるに決まってんでしょ! その原因のくせに全く呑気な様子の彼に苛立ってしまって思いっきり顔を背けた。
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