陽の向かうほうへ

4/5
前へ
/230ページ
次へ
中から現れたのは平たい箱。 かけられたリボンを解くと箱を開ける。 箱の中には一枚のエプロンが入っていた。 藍色にたくさんの向日葵が咲いたエプロン。 裾のほうが少し広がっていて女性らしいライン。 エプロンを箱から出すと下に隠れていた封筒が姿を見せた。 『彩夏へ  オープンおめでとう。よく頑張ったな。俺は駆けつけられないけど、ほんの気持ちです。知り合いのデザイナーの卵に頼んで作ってもらった。よかったら使って。 夏月より』 シンプルな白い便箋にそれだけが記されている。 夏月らしい、他人ばかりを気遣って、自分のことなんてこれっぽっちも書いていない手紙。 それが双子の片割れを思い出させて、無性に会いたくなってくる。 「よかったわね」 「うん」 お姉ちゃんに返事すると同時にエプロンをぎゅっと抱き締めた。 海の向こうで一人で頑張っている双子の兄に負けないように私も今日から戦っていかないといけない。 そのための戦闘服だ、これは。 私はさっそく来ていた黒いエプロンを外して、それを身に付けた。 「そろそろオープンの時間だよね」 私は看板を出すべく再び外へ出た。 夏が過ぎて朝の空気は少し寒さを感じるほど。 空も色が濃かったスカイブルーから淡い色へと変化してしまって。 その下にスタンド式の木製の看板を立てる。 向日葵が大きく描かれた看板。 この絵は頼んでもいないのにけんちゃんが描いた。 決してうまくはないけど天に向かって大きく咲く向日葵の絵。 その横に白いペンキで『ひまわり』と私が書いたんだけど、まず何より絵に目が行く。 私が文句を言うと『このほうが目立っていいだろ』と悪びれもしないから困る。
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2881人が本棚に入れています
本棚に追加