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「ただいま」と言いかけた口が止まる。
リビングのドアを開きかけて固まった。
窓辺近くのラグマットの上で真琴が倒れていた。
一瞬ひやりとしたが、近づいてみると寝ているだけだった。
隣には生後八ヶ月になる娘の琴音。
こちらも気持ちよさそうに寝ている。
どうやら琴音の昼寝に付き添っているうちに、真琴も春の日差しに負けて眠ってしまったらしい。
土曜日。
仕事が休みだから家族サービスでもしようかと思ったら、「雪弥さんはジムでも行ってきてください」と追い出された。
あまりに俺が琴音に構うから、自分の時間を持てていないのではないかと真琴なりに気を遣っているらしい。
そんなことはないのだがと思いつつ、身体が鈍っていたのも事実で久しぶりに汗を流してきたのだが。
「しかし、よく似ているな」
思わず笑みが零れる。
真琴は琴音は俺似だと言うけれど、寝顔は真琴そっくりだ。
健やかな無垢な二つの寝顔に機嫌をよくしていると、ふと思い立って携帯を取り出す。
二人の顔が入るように写真を取るとそれを待ち受けにした。
それまでの待ち受けは真琴の花嫁姿なのだが、本人にバレると消せ消せうるさいから今回は黙っておくことにする。
そこで、琴音が「うー」と声を上げた。
眠たげに瞼を開けた琴音が俺を見て動きを止める。
俺は「しーっ」と言いながら腰を下ろして琴音を抱き上げた。
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