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「ママが寝てるから静かにな」
よく寝起きは愚図って機嫌が悪い琴音だ。
騒ぐと真琴が起きてしまう。
「ママ、美人だろ?」
俺が問いかけると、琴音はじっと真琴を見る。
言葉なんてわからないはずなのに、その顔は母親をよく観察しようと神妙に見えるのだから不思議なものだ。
そこでふと、春とはいえ少し肌寒いかと真琴に何か掛けてやろうと腰を上げかけた時、「んー」と真琴が身動ぎをして、ゆっくりと瞼を開けた。
自分を見る俺と琴音の顔を見て二、三度パチパチ瞬きすると、バツが悪そうにする。
「……やだ、寝てた?」
「ああ」
「もう、起こしてくれたらいいのに」
膨れながらも照れ隠しをする真琴が可愛くて、身を起こした彼女を琴音を抱いていない腕で抱き寄せた。
突然、抱き寄せられたことに真琴は小首を傾げて俺を見上げてくる。
「雪弥さん?」
「いや、幸せだなと思って」
日だまりの中で、愛おしい妻と娘に囲まれて。
こんな人生が送れるなんて数年前の俺は思っていなかった。
「ずっと続けばいいのに」
「ずっとは無理ですよ」
ただの独り言のつもりが、即返答があった。
しかも、否定の言葉に虚をつかれてそちらを見る。
真琴はというと平然とした顔で「何かおかしなこと言った?」と俺を見つめていた。
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