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懐かしい夢から覚めて、目を開けるとカーテンの向こう側がうっすら明るくなっていた。
ベッドの横のナイトテーブルに置いてある時計を見ると朝の六時過ぎを示している。
今日は水曜日。
店は定休日だ。
でも、長居するわけにはいかない。
ベッドから出て裸の身に床に落ちた服を手に取ろうとした時、後ろから伸びてきた腕が腰に回って引き戻された。
ベッドに再び横になった私の身体にさらに後ろから肌をぴったりくっつけて拘束してくる。
「ちょっと、緒方く……」
「ねぇ」
私の声を遮るように口を開く彼。
肩に手をかけて私を自分のほうに向かせる。
「結婚しよ」
芯から溶かす甘い甘い声。
まただ。
何度目だろうか。
いつも彼に抱かれた後、緒方くんは私にプロポーズをしてくる。
何度聞いても、聞き慣れない。
この言葉が耳を打つたび、何度でも私の胸は高鳴る。
だけど。
私は彼の腕を無理に剥がすとベッドから出た。
「だめ。あなたは若いお嫁さんもらってちゃんと跡継ぎ産んでもらいなさい」
「俺は春奈さんしかいらない」
後ろから聞こえてくる声はとても真剣な声音で。
きっとあの真っ直ぐな瞳で私を見ているのが伝わってくる。
私の大好きなあの双眸で。
「……もう行くわ。あなたも遅刻するわよ」
私はふっ切るように言い放つと、床に落ちた服を拾ってベッドルームから出た。
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