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だけど、本家の人たちの反感を買うとうちの父や後々は長男の雪弥に皺寄せが来るのだ。
それがわかっていたからはっきりと拒否できずにいると
「それとも誰かいい方でもいらっしゃるのかしら?」
無言で俯く私におばさんがすっとその切れ長の目を細めた。
「春奈ちゃん、結婚というのは一時の恋愛感情でするものではないわ。もちろん、愛情は大切だけど一生を共にするのだからある程度安泰が約束された方じゃないと。せっかく大事に育ててきた御両親も安心させたいでしょ?」
汚い。
両親のことを出されると下手なことが言えなくなる。
ここで、彼のことを言ったとして、彼の実家は今経営が芳しくないらしい。
「だから俺の代で立て直さないとね」と言っていた彼を思い出す。
大企業の息子と傾きかけた老舗旅館の跡取り。
付き合っている人がいると言ったところで反対されるのは目に見えていた。
「春奈。せっかくの御縁だし、一度お会いするだけしてみなさい」
隣に座った母が諭すように言う。
母とて本家の顔を潰したくはないし、何よりいい縁談だから受けてもらいたいらしい。
私は渋々頷くしかなかった。
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