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華奢な細いリングに私の誕生石のアクアマリンが淡い光を帯びて鎮座している。
私は驚きのあまり指輪を前に硬直していると、彼がどんどん不安げな顔になっていく。
「気に入らない?」
「う、ううん!」
慌てて顔を力一杯横に振って、怖ず怖ずとその指輪に手を伸ばした。
「は……嵌めてみてもいい?」
私の問いに彼は嬉しそうに頬を上げる。
「待って。俺が嵌める」
指輪をケースから出すと私の手を取ってスッと嵌めた。
左手の薬指。
まるで、本当に結婚したかのような錯覚が起きるほど、その指輪は私の指にぴったりと収まって違和感なくそこに存在していた。
「ありがとう」
泣きながら指輪を撫でて、何度も何度も礼を言った。
「泣くなんておおげさだな」と彼は笑っていたけど、本当に嬉しかったんだ。
その時には薄々この見合いが断れないものだって勘付いていたからかもしれない。
見合い相手は私と会って、ますます気に入ってぜひ縁談を進めたいと言ってきていた。
あからさまに邪険にすれば本家の顔が立たないけど、かなり愛想はよくなかったはずなのに。
両親は喜んで、私の見合いを進めたがった。
うちの両親自体が女は早くいいところに嫁に行くべきだっていう古い考えの人間だったから、この反応は予測はついていたけど相手がさらに私を気に入るとは思わなかった。
しかも、相手は私の父が働く会社の取引先なのだ。
こちらから無碍に断るなんてことできるわけもなかった。
それからトントン拍子に私の気持ちを置き去りにして話は進んでいった。
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