春と冬

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それから、私はお見合い相手と結婚した。 私の五つ上で、顔は普通。 でも、優男で根がいい人だった。 だけど、私たちの間に子供がなかなかできなかった。 流産をしたりして、子供に恵まれなかった。 それが向こうの両親からしてみれば誤算だったようで、「子供ができない嫁なんて」と陰口というには大きな声でわざとらしく厭味を言われたりした。 それが日々のストレスになって、私と夫の間にどんどん溝ができていって。 夫の帰りも段々遅くなっていって、いつからか昼間に無言電話がかかってくるようになり、ついには愛人が家までやってくる始末。 薄々浮気しているなとは勘付いていたけど、夫婦関係を続けるために目を瞑っていた。 でも、さすがに愛人がやってきて「別れてください」とケンカを売ってきたら、もう知らぬ顔はできない。 その日の晩、帰ってきた夫を捕まえて話し合った。 「外で女がいるのには黙ってたけど、家まで乗り込んでこられたら堪ったもんじゃないわ」 「悪い」 「どうにかしてよ」 「わかってる」 「わかってるって別れるの?」 無言電話も嫌だし、また愛人が来るのはもっと嫌だ。 義理の両親も「もう愛人でも作って他で子供を作るしかない」とか言う人たちだったから、こんなことが知れたら私の面目が潰れる。 「ねぇ、きいてる?」 「うるさいな!」 じっと俯いたまま返事もしない夫に焦れて私が肩を揺するとその手を振り払われた。 温厚な彼にしてはめずらしく眦を吊り上げて私を睨みつける。 「元はと言えばお前に子供ができないからっ……」 そこまで言って我に返ったのか、口を噤む夫。 なるほど。 子供ができないのは全部私のせいだと思っていたのだ。
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