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それなのに、四年前、突然彼がやってきたのだ。
「お店出してるなら教えてくれたらよかったのに」
緒方くんはまるで旧友を訪ねてきたかのように朗らかな笑顔で私に言う。
別れて以来会っていない。
雪弥の結婚式にも来ていなかったから実に十年ぶりだ。
すっかり大人の男に成長した彼だが、中性的な綺麗な顔は変わっておらず、一瞬昔に戻ったかのようだった。
あんな別れ方をしたというのにどういうつもりなのか。
過去のことだからもう水に流したとか?
いや、あんなひどいことをした女を許せるわけがない。
「朝比奈、離婚したらしいね」
「......まぁね」
姉弟揃ってバツがついたことに私は苦い顔をするしかない。
やはり、雪弥からこの店のことを聞いてきたのか。
雪弥の結婚式で彼が出席しなかったことに私はほっとした。
彼に蔑んだ目で見られるのが怖かった。
少しはその姿を見てみたかったけど、それよりも侮蔑の眼差しに曝されることのほうが勝った。
それなのに、こうして店にまで来られるとは。
予想外過ぎてまだ目の前の彼が私の願望で作り出された幻のように思えてならない。
でも、わかってる。
ただ笑いにきたのだ。
自分を捨ててまで見合い相手と結婚したくせに、案の定浮気されて離婚した私を見てさぞかし愉快だろう。
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