春と冬

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だけど私に彼を怒る権利はない。 あれだけのことをしておいて、憤ること自体がおこがましい。 少しでも彼の気が済むなら甘んじて罰を受けるべきなのだ。 だから、私はなに食わぬ顔で接客をした。 緒方くんも普通に食事を済ませてその日は帰っていった。 これで少しは彼の憂さ晴らしになったかな。 もう会うこともないかと思うと寂しく感じるなんてどうかしている。 だけど、一週間も経たないうちにまた彼が来店したからさすがに驚いた。 惨めな私を見て、心中でざまぁみろと罵り足らなかったのか。 まぁ、それもそのうち飽きるだろうと私は平静を装って彼と接していた。 でも、飽きるどころか定期的に顔を見せ始めるから戸惑う。 何が目的なの? 罵倒したいならさっさとしてくれたほうがこちらとしても気が楽なのだけれど。 こうして、彼の真意を推し測りながら、表面上は一顧客に対するように笑顔で応対するのも疲れる。 こう頻繁にくるのなら、恋人はいないのだろうか。 そんなことまで考えだしてしまった自分に気づいて慌てて己を叱咤したけれど、一度気になるとなかなか頭から離れない。
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