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そんな時に緒方くんがパタッと来なくなって。
それまでは一週間に一度のペースで来ていただけに一ヶ月空いたらすごく気になる。
仕事が忙しいとか?
それとも彼女でもできたのかもしれない。
結婚はしていないようだけど、彼の歳からして結婚を約束した人がいてもおかしくはない。
......私に興味もなくなったのかも。
来なくなってよかったはずなのに、ズキズキと胸が痛む。
かといって、私から連絡方法はないから何もできない日々に煩悶とする。
それが、いけなかった。
胸の痛みに耐えながら店を開けていると、閉店ギリギリに開くドア。
「ごめん、ギリギリで。いける?」
朝から降りしきっている雨の音とともに、スーツについた雫を払いながら入ってきた緒方くん。
その姿に私は安心して涙腺までもが熱くなってきて、慌てて誤魔化すように営業スマイルを貼りつけた。
「うん、大丈夫」
私が頷くと「やった」と彼も頬を緩める。
その日は久しぶりに会えたことで気分が高ぶってしまったせいか、他にお客さんがいないことをいいことに「一緒に飲もうよ」と言う彼の言葉に甘えて店を閉めて、並んで座って晩酌しあった。
日本酒を飲み交わしているうちに酔いが回ってきて、熱を持った顔を手で扇いでいると、気づいたら彼に腕を引かれて抱き締められていて。
あっという間にキスされていた。
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