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その日から二年あまり、緒方くんとの関係は続いている。
誘われれば私は形だけの抵抗をして、すんなりと彼を受け入れた。
「春奈」って熱の籠った声で呼ばれると逆らえない。
何だかんだで彼から求められると嬉しいのだ。
でも、結婚だけは承諾できなかった。
温もりは欲しいくせに彼からの要望には応えられないなんて、どれだけ傲慢なのだろう。
もう、やめないと。
共に過ごした朝、お決まりのプロポーズを受けてはいつも思うんだけど、彼の顔を見るとつい決め手を打つことができない。
そして、今日も拒絶らしい拒絶もできないまま逃げるように彼のマンションから出てきた。
眩しい朝日を浴びながら自分の車に乗り込む。
ハンドルを握ったところで、自分の手首を見て動きを止めた。
「あ、時計......」
昨日外したまま彼の部屋に置いてきてしまった。
「はぁ」
また取りに行かないといけない。
きっと、緒方くんは店に持ってきてくれないだろう。
「取りにおいでよ」と甘い笑顔でまた私を誘うんだ。
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