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「お見合い?」
私はお茶を飲んでいた手を止めて母の言葉を復唱した。
今日は雪弥と真琴ちゃんの結納で、久しぶりに実家で家族全員が過ごすことになった。
夕食後、母が焼いたケーキを食べながら六人で談笑していたところに母が突然私と彩夏に「お見合いしない?」と言ってきたのだ。
「そうよ。二人にどうかと思って」
「えー、私、いいよ」
彩夏は見るからに嫌なそう顔で口をへの字に曲げる。
「そう言わずに、あなたももういい歳でしょ。雪弥もこれで結婚するし、ようやくあなたたちに集中できるわ」
めげることなく晴々とした表情で言うから性質が悪い。
雪弥の結婚が見えてきて、昔の結婚重視の勢いを取り戻したみたいだ。
でも、今の状況から抜け出すにはいい話だった。
「私受けようかな」
「お姉ちゃん?」
「マジで?」
彩夏と夏月が目を丸々見開く。
雪弥も予想外だったのか、じっとこちらを見つめてきて、私が本気なのか確かめているかのようだった。
「あら、そう?じゃあ先方にも伝えておくわね」
母が嬉々として席を立ち、空いた食器を持ってキッチンへと去っていった。
「向こうは資産家らしい。奥さんと死別されていて、別に離婚歴があろうと構わないと言っているそうだ」
父の言葉に彩夏が「いくつの人?」と訊くと私より十五歳上だと言う。
「十五上なんてもうほとんど親父たちの年代じゃん」
「お姉ちゃんはいいの?」
渋い顔の夏月とどこか必死な面持ちで問い詰めてくる彩夏。
私はこくりと頷いた。
「いいも悪いも出戻りの私でいいって言ってくれるなら有難いことだし、やっぱりこれから先一人だと色々心配だからね。彩夏はまだ若いんだから、後悔のないように考えなさい」
そう言い訳の言葉を並べて席を立つ。
これしか方法がない。
私が彼の手の届かない場所にいかないと、彼は諦めてくれないだろう。
何よりこうでもしないと私が彼から逃げられない。
そう、十六年前と同じ。
また私は彼じゃない人を選ぶのだ。
自分の都合で。
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