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昔使っていた自分の部屋に戻る。
結婚するまで使っていたこの部屋は十六年前と同じままで、私だけが時計の針が進んでしまったみたい。
ベッドに腰を下ろして、傍においていた鞄を膝の上に置く。
巾着袋を取り出すとその中のものを取り出した。
小さな藍色の箱。
開けるとアクアマリンの指輪が上品に収まっている。
あの時と同じ輝きで歳を重ねた私を見上げている。
捨てないとと思ったけど、どうしても捨てられなくて。
結婚して、つらいことがあった時はこれを見て耐えて。
一人になった時も、これを支えに頑張ってきた。
だけど、私はあの日から一度もこの指輪を嵌めたことがない。
彼を捨てると決心して、自分で指輪を外した時から。
この指輪を嵌める資格なんて私にはないのだ。
きっと、緒方くんも執着しているだけ。
過去、私を手に入れられなかったことが悔しくて、今、できなかったことを果たそうとしているだけ。
いざ、結婚してから様々な現実が目の前に現れた時、きっと彼は後悔する。
その時になって彼から疎まれる存在になるくらいならこのままでいい。
私は目を閉じると手の平の箱をそっと閉めた。
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