*

2/20
2880人が本棚に入れています
本棚に追加
/230ページ
俺が初めてその人を見たのは、同級生の家に遊びに行った時だった。 その同級生、朝比奈雪弥とは高校の弓道部で一緒だった。 新入生とは思えない腕前。 俺も中学から弓道をやっていたけど、明らかに朝比奈は周りと違っていた。 愛想はないが筋が通った奴で、腕も立つ。 入学して間もないがすぐに一目置かれる存在になって、でも驕ることもなくそこに好感が持てた。 しかも同じクラスだったから必然的に一緒に行動することも多くなって、すぐに仲が良くなった。 高校に通うにあたって神奈川の実家からでは遠いから一人暮らしをしていると話すと 「夕飯、食いにくる?」 という朝比奈の言葉に俺は迷うことなく「うん」と頷いた。 朝比奈の家は高校から電車で二十分くらいのところにある、大きな家だった。 育ちのよさが所作から滲み出ていたから何となく坊っちゃんなんだろうと予想はついていたけど、立派な家を前に手土産の一つも持っていないことをちょっと後悔した。 門扉を開けて日本庭園並みに整理された木々の間を石畳に沿って歩いていくと、家の玄関に辿りつく。 「ただいま」とドアを開ける朝比奈に続こうとした時、ふと、上でガチャと音がした。 何だろうと一歩後退して見上げると、二階の部屋の窓が開いていて、そこからパジャマ姿の女性が大きく伸びをしていた。 「んー」 実に気持ちよさそうに目を細めて、大きく息をして。 背を伸ばして見える女性らしくカーブした白いウエスト。 長く艶やかな髪に温かな夕日を反射させて微笑を浮かべる麗しい顔立ち。 一瞬で目が冴えた。
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!