97人が本棚に入れています
本棚に追加
就職氷河期なんて自分がその年齢に達した時には解決している問題だと楽観視していた。
俺は得意なこともやりたいこともないため進学はしなかった。
そして職安へと通う日々を過ごしている。
「はぁ……」
100社見事に惨敗。仕事なんて何だっていい。無職という二文字が重く圧力をかけてくる。
ふらふらと途方に暮れながら並木道を歩いていると夕焼けが差し込み、キラキラと輝く"それ"がポツリと寂しそうに寝そべっていた。
目を擦り、足早に"それ"に近づくと辺りを見渡し自分以外に誰もいないことを確認した。
「なんと……」
今までの負のオーラが嘘のように俺の心と体は高揚する。
清楚な印象を与える純白。フリルや刺繍のような邪魔な要素はカットされた少し小さめの"それ"を俺は震える両の手でしっかりと握り締めた。
パンティゲット――。
俺は慌てて近くの公園に駆け込むと男子トイレの個室ドアを叩きつけるようにして開いた。
鍵をかけ、両の手に握られたパンティを再度凝視するとおもむろに頭に被せてみる。
『これはもう俺のパンティだ』と誇示したかっただけであり、俺にそんな怪しげな趣味がある訳ではない。そう俺は変態じゃないのだ!
いや、落ちていたパンティを拾っている時点で俺の人間性は地に落ちていたんじゃないか?
そう考えると急上昇した俺の心拍数は急激に低下していった。
「俺は一体なにをしてるんだ……」
完全に我にかえった俺はパンティを脱ごうと手を添える。
"顔認証完了。コレニヨリ、オペレーションヲ開始スル"
「ひっ」
耳元で聞こえた機械音に恐怖した俺は慌ててパンティを脱ぎ捨てようとした。が、すごい力で押さえられているようで脱ぐことができない。
"まぁ慌てるよね。大丈夫、悪いようにしないから"
今度は女性の声が耳元から聞こえる。
「い……いったい何なんだ!」
俺は公園のトイレという事も忘れ、涙声で精一杯そう叫んだ。
"私?私はパンティ型パワースーツ『パンⅡ(ツー)』よ"
ネーミングセンスを疑うね!
つぅかパワースーツって何!?
何で喋ってるの?なんで脱げないの?
今どういう状況?
"一つ一つ説明してあげるからちょっと静かにしてよ変態サイコ野郎"
「俺今喋ってた?」
誹謗中傷が入ったような気がしたが、この際そんなことはどうでもいい。
とにかく現状を整理することに注力したいが頭も働かず、俺は質問することしかできずにいる。
最初のコメントを投稿しよう!