ホンノウ

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「チーフ、どうしたんっすか? そんなに掻いて。」 「あ? なんか今朝からかいーんだよ。 虫にでも刺されたかな。」 「無菌室に居たのに? 変なの。」 「でも夜は家に帰るからな… 布団にダニでも湧いてたか?」 ははは…と笑ったのはとある研修所に勤務する研究者。 まだ若いのに今の研究の責任者。 将来を期待された若手、ホープ。 名前は… 特にあかさない。 昨夜は女に会ってた。 嫁は居るが、 アドレナリンが上がった状態で家に帰っても、 嫁はなかなかそれを落ち着かせてはくれないから。 ここ数年。 ほとんどない。 セックスレスとはなんと味気ない人生か。 だからきっと、 細菌の動きや変化に癒しを求めてたんだとおもう。 本来の性格はこんなじゃなかったはずなのに… 特に無機質な研究所で何時間も集中してる状態にあると、 一歩外に出たとき、開放感で爆発しそうになる。 その女と出逢ったのは数ヶ月前。 職員の送別会の帰り、 少し酔いを冷ますために歩いて帰ってたときだった。 終電も逃したし。 キレイな女だった。 見るからに高級な店で働いてる風の… 見惚れてると女の方から声を掛けてきた。 「少し飲んで行かれます?」 透き通った声に… 思わず頷いた。 待ってたのかもしれない。 こんな出逢いを…
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