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学校帰り、通い慣れた通学路を歩き家へ向かっている途中のことだ。
今朝降った雨によってできた水溜まりを避けながら歩いていると、僕は奇妙な店を見つけた。
なんだありゃ。
それは屋台やスーパーのように構えているのではなく、ラーメン屋や豆腐屋、石焼き芋屋のような移動式の店であった。
それにしても、見れば見るほど奇妙である。
台車を引いているのは僕とそう歳の変わらないと思われる少年。髪は長めでさらさらとしており目が隠れている、服装はTシャツにジーパンというオーソドックスな服装だ。
ここまではいい。
しかしだ。
奇妙だと思った理由は、彼の引いている台車にあった。
まるで小学生が塗ったようなムラのある、青とも緑言い切れないなんとも微妙な淡い青緑で、台車全体が塗られている
。模様やマークは一切ない、ただその一色で塗装されているのだ。
台車を引いた少年は路地を歩く。宣伝もしない、何か料理の匂いもしない。
ただ彼はそこを歩いているだけだった。
そして不思議なことに、周りの人は気にも止めず、彼を追い抜いていくのだ。
まるで見えていないかのように。
そのあまりに異様な雰囲気は、ぼくの心を惹き付けた。
その時だった。
雨の音が聞こえなくなった。自分が息をしているのかどうか分からない。思考だけがひたすら活動する。
目があったのだ。その少年と。
それだけのこと。
少年は僕の方を見て、そして微笑んだ。
微笑んだように見えた。
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