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ナレーション「でも、そんな冴えない俺の心の片隅にも、やっぱりあの欲求があったのかもしれない。このままに何か流されて生きるなんて嫌だ。生きるというレールの上で右に行くのか? 左に行くのか? それともこのまま前に進むのか……それは自分が決めるのだという誰もが一度は強く持つであろうあの欲求」
正明は助手席に置いた弁当を見る。
弁当、温めたばかりでほのかに湯気が出ている。
正明、弁当から遠ざかる若者ふたりの背中へ視線を移す。
正明「……どうせ明日は休みだし、ちょっと行ってみるかな」
○峠・夜
ナレーション「それが俺をここに連れてきた気がする」
正明、若者たちの後をつけて車を走らせると峠道の一部で人がたくさん集まっている。
○自家用車内
正明「なんだあれ?」
○峠・夜
正明、車がたくさん止まっている場所に自分も車を止め、降りる。
そして人だかりが出ている場所に近づいていくと、闇の中から人型のシルエットが浮かびあがり、西島のメックがその姿を現す。
正明「あれは……実物大のメック?」
と、メック乗りと西島がふたりでレースの内容の話し合いをしている。
メック乗り「なに、ハンデマッチだと!?」
西島「ああ、それくらいでちょうどいいと思うが?」
メック乗り「なめやがって……ふん、でもまあいいぜ。おまえも負けたときの言い訳がほしいんだろうからな」
メック乗り、自分のメックへと向かっていく。
西島、特になにも言わず踵を返す。
と、ギャラリーの中にいた正明と西島の目が合う。
だが西島はすぐに視線を逸らし、自分のメックの元へ。
ギャラリー1「よっしゃあ、みんなァッ! スタートの合図は俺らの役目だぜ!」
ギャラリー2「みなさん御一緒に御唱和くださーい!」
ギャラリー3「せぇーのォッ!」
大人数の声「さんッ!」
正明、目と口を大きく見開きメックを食い入るように見つめる。
○西島メック操縦席
大人数の声「にぃッ!」
西島、目を閉じて余裕の表情。
○メック乗り操縦席
大人数の声「いちッ!」
横の西島を睨みつけるようにみるメック乗り。
○峠・夜
大人数の声「すたぁ―とォッ!」
エンジン音が轟き、メックが動き出す。
ギャラリーたちが沸く。そんな中でひとり茫然とメックの姿を見送る正明。
正明「すっ、すげぇ……」
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