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くらくらする。眩暈にも似た感覚に陥る。
無意識のうちに零していた言葉を、孝輔が拾う。
「くらくら?熱か?」
心配そうに顔を覗き込んでくる瞳が思いのほか近くにあって、思っていたことを口に出してしまったのだと理解する。
いけないわね。孝輔の前だとどうしても気を緩めてしまう。許してしまうが正しいのでしょうけれど。
「いいえ」
頬に指をすべらせ、唇を人差し指でゆっくりとなぞる。少しだけ開いた唇からのぞく舌は赤く。
「貴方に酔っただけよ」
ぶわっと赤が伝染し、気まずそうに目を逸らした。それをわたしがさせているのだと思うと、嬉しい。
「愛…………好きよ」
何だか言いたくなって、ぽつりと言葉を落とした。
愛なんて知らないわたしに愛してるは言えなかった。それを知ってか知らずか――彼のことだから勘づいたでしょうけれど――優しく囁いた。
「…………俺も」
信じられなくて念を押すように問うと、「本当だよ」という言葉が返ってくる。
「わた、しの声……きらい?」
「そこは『好き』って聞くとこだろ」
苦笑を浮かべながらわたしの頬を両の手で包む。自然と上に向く視線が、下りてきた彼のものと交差する。
「教えて……孝輔」
懇願するような声になぜか泣きそうに顔を歪めて、孝輔は壊れものを扱うようにわたしを抱きしめる。
「好きだよ。綺麗な声だと思いながら、いつも聴いていた」
ギターを握る手に重ねられた手がほんの少しだけキツくなる。
「……お前は、消えてしまいそうだ。掴んでいないと、擦り抜けて行くような……」
「じゃあ、捕まえていて。わたしが消えてしまわないように……」
そっと口づけを落とし、手を放してステージへ上がる。こんな形でファーストキスを奪われるなんて思わなかった。……いいえ、奪わせたが正しいわね。
捕まえていてと言っておきながら、自らその手を解くなんて、ひどく滑稽じゃないかしら?
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