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「『引きちぎると 滲み出すこの景色は 仄暗い鈍色』」
シャウトする声とは矛盾した優しい音色とのアンバランスな感じがいかにもわたしらしい。
もう幾度となく見上げたあの高く遠く、酷く広い空が脳裏をよぎる。わたしが見上げると、いつも仄暗い鈍色の空。泣き出しそうなあの空を。
「『貴方が居ないと 急速に失われていく 世界の色』」
貴方に出会って変わったのよ。そんな意味を込めて歌う。
「『無色透明なあたしを 色づけてくれる 絵の具のような君』」
透明人間は透明になれる人間じゃなくて、透明になってしまった人間のことだと言った人がいた。
(透明人間みたいに誰にも見えない"わたし"が見えている人――それが貴方よ、孝輔)
もう想いを口にしたりしない。好きも愛も、さっきので最後。いいえ、最初で最期の告白よ。
「『本当を失くした 日常の綻びを見て』」
いつもの観客と、いつもの演奏。何てことはないわ。ただ……いつもに戻るだけよ。言葉を交わさず見つめ合うだけの日々に。
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